ディープインパクト(菊花賞)

菊花賞武豊鞍上のディープインパクトが単勝1.0倍の人気に応え、見事に優勝、無敗で三冠を制覇しました。


ディープインパクト (Mahmoud/Hyperionちゃん)
牡3 2002/3/25生 父サンデーサイレンスウインドインハーヘア
牝系 F.No.〔2-f〕 ウインドインハーヘア(1991・愛)来日より2世代目


今年の菊花賞、「衝撃」を期待していた人たちの目には、どう映ったのでしょうか。予想していたほどの驚きはなかったのではないでしょうか。
武豊騎手はずいぶん慎重に乗ったな」、というのが僕の第一印象でした。スタートから1コーナーあたりまでの1000m以上をかかりながら走っても、馬の行く気には任せず我慢。アドマイヤジャパンらがハロン12秒0〜3ぐらいのラップで向こう正面からリードをひろげていっても我慢。坂の下りからローゼンクロイツらが前を捕まえに動いても、まだ我慢。勝利という最大の使命を「唯一の使命」として、「失敗(自滅)しないこと」に努めたような騎乗でした。
もちろん、上がり3ハロンを33秒3で走っていたり、4コーナーで約20馬身離したアドマイヤジャパンに逆に2馬身先着していたりと、驚くべき能力を見せつけたと言えなくはないですが、それもこれも前走までにわかっていた「絶対的能力の差」という貯金を考えれば、武豊騎手の想定の範囲内の出来事ではなかったでしょうか。
サッカーで、中盤で主に守備に専念し、ピンチの種をあらかじめ潰してまわる仕事をする選手をアンカーと言ったりしますが、貯金を切り崩しても自滅だけは防ぐ騎乗は、まさにアンカーの騎乗だったと思います。多くのファンからは「ファンタジスタ」の走りを期待されていたかもしれませんが、若駒ステークスとは勝利の重みが違いますから、これは仕方なのないところでしょう。


ディープインパクトの最大の武器は、ここまでアクシデントなしで順調に過ごしてきたように、狙ったレースに狙い通りの状態で出走できる体ではないでしょうか。末脚の破壊力や一気にスピードを上げる瞬発力で同等の能力を示した馬は過去にもいたと思いますが、この馬ほど毎回よい準備をしてゲートに入れた馬は稀有だと思います。今回に限っても、中間熱発やノド鳴りで思うように調整できなかったり、故障で出走もできなかった実績馬が多く見受けられました。
もちろん馬の体質のみならず、池江厩舎や育成場のスタッフの仕事も的確だったのでしょう。多くの仕事人たちの手を経て、競馬場でアンカー・武豊騎手にバトンが渡った時には、いったいどれほどのリードがあったことでしょう。
レース後の武豊騎手・池江師はじめ関係者の方々の顔に、共通して安堵感が表れていました。どれだけ人事を尽くしても、思い通りの結果とはならないかもしれない世界で、それでも結果を残したということに、心からの賞賛を送りたいと思います。3冠、おめでとうございます。


最後に。武騎手をはじめ、ディープインパクトのことを「英雄」と呼ぶ風潮がありますが、それにはまだ早いと思います。今はまだ、国内の同世代で敵無しを証明したに過ぎません。これから古馬を倒し、さらには海外に出て大レースを勝ち取ってはじめて、その称号に相応しい名馬になると思います。今の彼を「英雄」などと呼んで喜んでいたら、天国のエルコンドルパサーに笑われてしまいそうです。まだ「お山の大将」で終わってしまうかもしれないんですよ。
次走はジャパンカップでしょうか。ディフェンディングチャンピオン年度代表馬、それに凱旋門賞馬との対決が楽しみです。その次は、海外遠征での活躍を大いに期待します。エルコンドルパサーを、タイキシャトルを、越えてゆけ。


進め大将、碇をあげて