とりたてて主張も、結論めいたものもありませんが、、、ひとつ覚え書きを。
ディープインパクトの母であるウインドインハーヘアは芝2400mの独G1・アラルポカルの勝ち馬。
その父のAlzaoは現役時代G1勝ちこそありませんでしたが9~12f戦で活躍し、伊G3エリントン賞(芝2400m)で勝利。種牡馬としては愛チャンピオンステークスを2回勝ったAlboradaや英オークス馬*シャトゥーシュなど、中長距離の本格派を出しました。
ディープインパクトの祖母Burghclereは競走馬としては1勝どまりでしたが、芝12fの英G2・リブルスデイルステークスで4着。
ディープインパクトの3代母Highclereはオーナーブリーダーのエリザベス2世陛下に英1000ギニー(芝8f)・仏オークス(芝2100m)のタイトルをもたらした名馬。
この1000ギニーだけがここまで挙がったレースの中で毛色の違う忙しめの競走で、それもそのはず、Highclereの父Queen's Hussarはサセックスステークスやロッキンジステークスを勝ったマイラー。英2000ギニーで名馬Mill Reefを3馬身千切ってみせたアイドルホース・Brigadier Gerardの父としても有名です。
Highclereの母父も母母父もステイヤータイプの種牡馬が鎮座しているので、僕はディープインパクト産駒の血統表を見る際には、このQueen's Hussarの部分が母方の血とどう呼応しているかを、ひとつ気にしています。偉大なるディープインパクトの産駒とはいえ、スピード不足に悩む馬も多いので。
表題に挙げた2頭の馬、VilmorinはこのQueen's Hussarの母の父にあたり、Gold BridgeはそのVilmorinの父です。
血統情報:5代血統表|Queen's Hussar(GB)|JBISサーチ(JBIS-Search)
ちょうど先日までイギリスではロイヤルアスコット開催が行われていましたが、毎年その初日に行われるのが直線5fのG1、キングズスタンドステークス。Vilmorin、その父Gold Bridge、さらにその父のGolden Bossはこのレースの勝ち馬です。Gold BridgeとGolden Bossは2度ずつ勝っています。
栗山求さんが過去のお仕事を公開されていますが、その『スタミナ・インデックス』というコラムで、最も数値が低い(産駒の平均勝ち距離が最も短い)種牡馬として紹介されているのがGold Bridge。自身もスプリンターなら、産駒もスプリンターばかり輩出したのがGold Bridgeという馬になります。
Vilmorinも父のスピードを色濃く受け継ぎ、マイル以下で活躍したスピード馬を輩出した種牡馬になりました。後継種牡馬のQuorumの産駒には障害のスーパースター・Red Rumの名前が。
そしてこの欧州スプリンター父子の血脈こそが、ディープインパクト産駒の最重要スピード血脈だ、、、とは思っていません。
Queen's Hussar内で見れば、その血統表で3x3のクロスになっているFair Trialは、ウインドインハーヘアの中では合計4本。サンデーサイレンスの中で重きをなしているMahmoudとは同じLady Josephine牝系であり、ディープインパクトにおけるスピード血脈としての重要度ではこちらの方がずっと上でしょう。
そんな、ディープインパクトの血統表の6,7代目にぽつんと存在するスプリンター父子を何故気にしているのかというと、若駒の配合の中では地味な脇役ポジションながら、ここ最近やたらと目につく機会が増えているからなのです。
Vilmorin、またはGold Bridgeが血統表に登場するパターンは主に8パターン。
①Queen's Hussarの母父がVilmorin
ディープインパクトの他に、ウォーエンブレムなど。
┌サンデーサイレンス
ディープインパクト
└ウインドインハーヘア
└牝
│ ┌Queen's Hussar
│ │ │ ┌Vilmorin
└Highclere └ 牝
┌Our Emblem
ウォーエンブレム
│ ┌Queen's Hussar
│ │ │ ┌Vilmorin
│ ┌Brigadier Gerard └ 牝
│ ┌牝
│ ┌Lord At War
└ 牝
②Rough Shodの父がGold Bridge
Sadler's Wells、Nureyev、タイキシャトルなど経路はいろいろ。
┌Northern Dancer
Sadler's Wells
└Fairy Bridge
└Special
└Thong ┌Gold Bridge
└Rough Shod
┌Kingmambo
│ │ ┌Nureyev
│ └Miesque └Special
│ └Thong ┌Gold Bridge
│ └Rough Shod
│
キングカメハメハ
└マンファス
┌Devil's Bag
タイキシャトル
└ウェルシュマフィン
│ ┌Thatch
└Muffitys └Thong ┌Gold Bridge
└Rough Shod
┌エンドスウィープ
スウェプトオーヴァーボード
│
│ ┌Cutlass
└Sheer Ice └牝
└牝 ┌Gold Bridge
└Rough Shod
③ゼダーンの母父がVilmorin
トニービン、Highest Honorなど。
┌ゼダーン ┌Vilmorin
│ └ 牝
┌Kalamoun
┌カンパラ
┌トニービン
エアグルーヴ
└ダイナカール
┌ゼダーン ┌Vilmorin
│ └ 牝
┌Kalamoun
┌Kenmare
┌Highest Honor
レーヴドスカー
└Numidie
④ヴァイスリーガル・Vice Regent兄弟の母方にGold Bridge
フレンチデピュティ、クロフネなど。
┌Vice Regent
│ │ ┌Menetrier ┌Gold Bridge
┌Deputy Minister └ 牝 └ 牝
┌フレンチデピュティ
クロフネ
└ブルーアヴェニュー
┌フジキセキ ┌Vice Regent
カネヒキリ │ │ ┌Menetrier ┌Gold Bridge
│ ┌Deputy Minister └ 牝 └ 牝
└ライフアウトゼア
⑤Kris S.の母方にGold Bridge
シンボリクリスエスなど。
┌Kris S.
│ └ 牝
│ └ 牝 ┌Gold Bridge
│ └ 牝
シンボリクリスエス
└Tee Kay
⑥Monsunの母方にGold Bridge
近年輸入繁殖が増えているドイツ血統。
┌Monsun
│ └ Mosella ┌ 牡
│ └ 牝 └牝
ノヴェリスト └牝 ┌Gold Bridge
│ └ 牝
└Night Lagoon
⑦Bold Lad(IRE)の母方にGold Bridge
現役競走馬だと父方よりも母方によく見かけます。
┌デインヒル
ロックオブジブラルタル ┌Gold Bridge
└Offshore Boom ┌牡
│ ┌Bold Lad (IRE) ┌牡
└Push a Button └Barn Pride
┌アドマイヤムーン
ハクサンムーン
└チリエージェ ┌シェイディハイツ ┌Bold Lad (IRE)
└メガミゲラン └ 牝
┌ディープインパクト①
マカヒキ
│ ┌フレンチデピュティ④
└ウィキウィキ ┌ 牡
└リアルナンバー └ 牝 ┌Bold Lad (IRE)
└ 牝
⑧Zafonic・Zamindar兄弟の母方にVilmorinとGold Bridge
輸入されている繁殖はそれほど多くありませんが、Vilmorinを最初に気にするようになったシェンクはこのZafonicの産駒。またこのWold Lassの牝系からは海外で活躍した馬が多く、例を挙げるとBCフィリー&メアターフやヴェルメイユ賞などを勝ったMidday。
┌Zafonic
│ └Zaizafon ┌Gold Bridge
│ └Mofida ┌Vilmorin
シェンク └Wold Lass ┌Gold Bridge
└Buckwig │ ┌ 牡
└Cheb
┌Zamindar
│ └Zaizafon ┌Gold Bridge
│ └Mofida ┌Vilmorin
Zarkava └Wold Lass ┌Gold Bridge
└Zarkasha │ ┌ 牡
└Cheb
┌Oasis Dream
Midday ┌Kingmambo ┌Nureyev②
│ │ └Miesque
└Midsummer
└Modena
└Mofida
└Wold Lass
この8パターン以外でも、現役世代ではジーナロマンティカやチチカステナンゴを抱える血統表などでもGold BridgeやVilmorinの名を見ることができます。
┌Smadoun
│ └牝
│ └牝
│ └牝
│ └牝 ┌Gold Bridge
│ └Gold Lily
チチカステナンゴ
└スマラ
┌キングカメハメハ②
ベルシャザール
└マルカキャンディ
└ジーナロマンティカ
└牝
└牝
└牝 ┌Gold Bridge
└Gold Lily
こう馬名を挙げてみるとなんということもなく、近年、VilmorinやGold Bridgeのインブリードを見つけては「まただ」と思う機会が増えたのは、社台グループがここ最近に導入した種牡馬のあれにもこれにも、このスプリンター父子の血が含まれているからでした。
インブリードといってもせいぜい7×7ぐらいの濃さで、西山牧場の成功種牡馬マタドア(Gold Bridgeの孫)が元気な頃と比べたら現役世代への影響力は微々たるものでしょうが、ここまで様々な経路で名前を見かけると自分の中での注目度は上がりますね。
スピード面でドラが一枚乗るようなイメージで。
(オナーズリターン ━Vilmorin6×4、Gold Bridge7×5,5━ぐらいの濃さになったらまた違った表現ができそうですが)
さて、今年も2歳の新馬戦が始まりました。社台グループの芝向きの新種牡馬は、ルーラーシップとディープブリランテ。この2頭もまた、Gold Bridgeの血を引いています。それも複数の経路から。
┌キングカメハメハ②
ルーラーシップ
└エアグルーヴ③
┌ディープインパクト①
ディープブリランテ
│ ┌Loup Sauvage ┌Nureyev②
│ │ └ 牝
└ラヴアンドバブルズ
ディープブリランテは種牡馬入り初年度から種付け頭数は毎年100頭以上で、ルーラーシップに至っては毎年200頭以上。なんだか、脇役ながら売れっ子、といった感じになってきました。
もう1頭、フランスで2008年から供用された後日本に渡ってきたタートルボウルも、国内での産駒は2歳が最初の世代。前述2頭と比べるとあまり話題になっていない種牡馬ですが、この馬も実はGold Bridgeを引く血統馬。
┌Northern Dancer
┌Night Shift
┌Dyhim Diamond
│ └牝 ┌ 牡 ┌ガーサント
│ └ 牝 └ 牝
│ │ ┌Gold Bridge
│ │ ┌Golden Cloud
│ │┌Galivanter
│ └牝
タートルボウル
│ ┌High Top ┌ヴィミー
│ ┌Top Ville └ 牝
│ │ └牝
│ │ └牝 ┌Menetrier ┌Gold Bridge
│ │ └ 牝 └ 牝
└Clara Bow
│ ┌ゼダーン ┌Vilmorin
│ │ └ 牝
│ ┌Kalamoun
└Kamiya
ゼダーン経由(③)で引くVilmorinが1本、上の例以外の経路からGold Bridgeが2本の計3本。地味なイメージを持っていましたが、こう見ると、ここまでの社台グループの流れの延長線上にいますね。フランス供用時のG1勝ち産駒2頭はともに母方にNureyevを抱えており、上記の②のパターン。
あらためて考えてみるとこのタートルボウル、Mr.Prospectorもサンデーサイレンス~Halo~Hail to Reasonも含まず、Northern Dancerは1本。サンデーサイレンスのインブリードを避けてきたような近年の社台グループの配合にはNorthern Dancerを3本も4本も抱えるような配合馬が増えていますが、キングカメハメハ(Northern Dancer 3本)やハービンジャー(Northern Dancer 4本)とは異なる経路からのNorthern Dancer (Night Shift)を1本だけ引くのは、母方の流れを継続しつつ近交の弊害を回避するのに都合が良さそうです。
牧場のエース牝系が抱えるキー的存在の血も、ガーサント(エアグルーヴなど)・ヴィミー(ウインドインハーヘアなど)と抑えています。
自身がアウトブリード寄りの配合馬なため、産駒の成績は母方の個性に強く影響されそうですが、この馬は日本に来て、それも社台スタリオンステーションに来て大正解となるかもしれません。
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これから先、血統表を漁って何か気づいた時に、これが何か助けになるかもしれない、なったらいいなあと思いながら書き留めていたら随分と長くなってしまいました。。。
今回はここまで。